安家地大根~種の物語
2012年 02月 04日
これに対し、安家地大根(「安家」地区の土地の大根)は、ちょっと厄介です。まず、種が売っていないから、自分で種を採らなくてはなりません。春に花を咲かせ、莢から種をむきます。7月下旬~8月上旬に種を播きますが、すぐに発芽するやつもいれば、忘れたころに芽を出すやつもいます。そして、どんどん大きくなるやつも、ちっとも成長しないやつも、太いやつも細いやつもいます。色だって赤かったり白かったり、時々紫や桃色もあります。
収穫してから、食べるのもちょっと手がかかります。辛いし、固いし、おでんにしたら決して美味しいものではありません。でも実は、そこに個性があって、他にはない安家だけの味があるんです。つまり、安家の食文化です。
安家地大根のように、その土地で先祖代々伝えられてきた種を「在来種(ざいらいしゅ)」や「伝統野菜」と言います。在来種は、長い年月をかけて、それぞれの土地の風土に合うように、自ら進化を遂げてきました。農薬も化学肥料もない時代を生き抜いてきた、逞しく生命力にあふれる種ということができるかも知れません。
もし同じ日に播いて、同じように成長したらどうなると思いますか?
芽が出揃ったころ台風が直撃したら?害虫が大発生したら?強い霜がおりたら?
同じようにやられて、全滅してしまいますよね。
気まぐれに、自由奔放に一粒一粒が育っていれば、全滅することはなく、必ずどれかが命をつないでくれるのです。赤い色はポリフェノール、強い紫外線から身を守るための色素。水分が少なく固いのは、寒冷地での凍結を防ぐため。それぞれに理由があります。
そして、安家の人たちは、この地大根の特徴を生かし、地大根を長く厳しい冬の食糧として、命をつないできたのです。
在来種には、それぞれの土地の物語が詰まっていて、ここで生きるための秘密が隠されています。種を失うことは未来の子どもたちの生きる術を奪うこと。在来種を守ることは、食糧やエネルギーを外国に頼る日本において、とても大切なことです。
人間だって、みんなが同じ優等生じゃつまらないでしょ。