「詩の喜び」北畑光男氏 講演会・朗読会

「救沢の風」

まぶたをとじると
山が
大きく揺れ動いているのであった
その山のなかから
巨大な恐竜が咆えるような音が
私を誘うのである
下閉伊郡小川村救沢の風である
あの山をゆらす風は
兎や狐そしてときには熊や羚羊などをつれてくる
透かしてみる木々の葉からは鳥の声が風にのってくる
牛をつれて穴目ヶ岳の高原にものぼったり
きのこを採りに黒森山にものぼった
日が沈めば
家のランプの灯りを灯した
囲炉裏の火が
家族の心だけをうつしだしていた
風の夜に栗の実はぼたぼたとおちた
裏の山が巨大な恐竜のように咆えた
食べるものもなく
生まれてすぐに亡くなった姉が風になり氷河期に滅んだ恐竜たちを
呼んでいるようにも思えるのであった
燠だけを残して
親も兄も妹もしんと眠った
目をつむると
山が大きくゆれ動いている
以来三十余年
転々と居を変えるたびに軽くなってくる私に
救沢の風が吹きつけてくる
風にまいあげられる紙切れのように
私の生は宙空を
ただよいつづけるのであるか
                詩集『救沢まで』


大川で生まれ、小学4年生まで救沢で育った北畑光男さんの詩には、
ふるさとへの思いがたくさん込められています。
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by kyounoinaka | 2011-06-18 22:21 | ■活動 スローフード岩手