「詩の喜び」北畑光男氏 講演会・朗読会
2011年 06月 18日
まぶたをとじると
山が
大きく揺れ動いているのであった
その山のなかから
巨大な恐竜が咆えるような音が
私を誘うのである
下閉伊郡小川村救沢の風である
あの山をゆらす風は
兎や狐そしてときには熊や羚羊などをつれてくる
透かしてみる木々の葉からは鳥の声が風にのってくる
牛をつれて穴目ヶ岳の高原にものぼったり
きのこを採りに黒森山にものぼった
日が沈めば
家のランプの灯りを灯した
囲炉裏の火が
家族の心だけをうつしだしていた
風の夜に栗の実はぼたぼたとおちた
裏の山が巨大な恐竜のように咆えた
食べるものもなく
生まれてすぐに亡くなった姉が風になり氷河期に滅んだ恐竜たちを
呼んでいるようにも思えるのであった
燠だけを残して
親も兄も妹もしんと眠った
目をつむると
山が大きくゆれ動いている
以来三十余年
転々と居を変えるたびに軽くなってくる私に
救沢の風が吹きつけてくる
風にまいあげられる紙切れのように
私の生は宙空を
ただよいつづけるのであるか
詩集『救沢まで』
大川で生まれ、小学4年生まで救沢で育った北畑光男さんの詩には、
ふるさとへの思いがたくさん込められています。
